コラム一覧仕事と自殺予防(1)不況…30代の疲弊目立つ失業して半年、神奈川県の39歳の男性が面接を受けた企業は50社を超えた。昨年3月、就職面接の帰り道、心は疲れ果て、もう限界だった。帰宅すると、「ごめんね」と一言、仕事に出ている妻の携帯電話へメールした。医師から処方されていた薬や救急箱の薬を大量に飲んだ。 元々、男性は機械メーカーの営業職で、引き抜きの誘いが来るほどバリバリ働き、結果を出した。ところが、管理職に就いた30歳代半ばから、上司との衝突に悩み、めまいなどの不調を覚えるようになった。一昨年夏、うつ病と診断され、3か月休職の末、会社を辞めた。 引き抜きの経験もあり、再就職は心配していなかった。ところが不況の中で、面接を繰り返しても仕事は見つからない。初めは機械メーカーを回ったが、この業界は難しく、他業界に対象を広げた。服薬した日に受けた面接は、マンション管理会社だった。 提示された年収は200万円ほど。年収1000万円以上の時期もあっただけに、その金額もつらかったが、「うちは昇給なし、残業手当なし、ボーナスなし」という説明に心が砕けた。 「これじゃ、頑張ってもはい上がれない……おれには、もう商品価値はない。消えた方が楽だ」 男性が薬に手をつけたころ、メールを見た妻は、面接失敗の知らせと受け止め、普段通り仕事を終えて帰宅。散乱した薬の中で倒れている夫を見つけ、119番通報した。 警察庁発表の全国の自殺者数は11年連続で3万人を超え、特に昨年はこの男性のような30歳代が前年比1・7%増の4850人で過去最悪となった。30歳代の自殺者は10年前と比べ3割以上の増加だ。 NPO法人自殺対策支援センター「ライフリンク」代表の清水康之さんは「最近は非正規雇用の拡大や景気悪化による就職難で、中高年だけでなく、若い世代が疲弊している」と指摘する。 男性は救急車で横浜市大市民総合医療センターの救命救急センターに運ばれた。同センターの救急患者の15%以上が自殺未遂で、最近は、ここでも30歳代が目立つという。 男性は胃洗浄の処置を受け、翌日の夕方、意識を取り戻した。そして改めて失業という事実に直面した。病院のスタッフもそのことの意味をよく理解していた。(「医療ルネサンス」から。このシリーズは全6回) ◆全国の自殺対策相談窓口が検索できる「ライフリンクデータベース」のホームページは、 (2009年10月16日 読売新聞)
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