「派遣」残ったのは後悔退職金なし 低い厚生年金加入率「介護を受ける人とそう年の違わない自分が、介護現場で働けるのだろうか」。東京都江東区の福祉専門学校で職業訓練を受ける宇田育子さん(63)は、不安にかられた。授業でほかの生徒を介助して歩く練習をしたが、階段の昇降は自信がなく、参加できなかった。時々、ひざや腰が痛むのも気になる。 商社などで「派遣」として28年間、嘱託なども含めると非正規雇用で計35年間も働いてきた。急速に増えた派遣労働者の先駆け的存在だが、景気悪化で6月に契約を更新できず、仕事を失った。再就職のため、ホームヘルパーなどの資格取得をめざす。 商社で海外との通信業務に携わっているころは、「正社員にならないか」と何度も打診された。しかし、派遣元からは派遣先への就職を制約されており、断ったという。「今なら迷わず正社員を選ぶけれど、当時は右肩上がりの経済状況。派遣社員のままでもいいと思えた」 失敗した、と悟ったのは、今回失業してからだ。調べてみると、65歳から受け取れる年金は厚生年金と国民年金を合わせて月10万円に満たない。「派遣」だった28年間のうち初めの20年間は厚生年金に未加入で、国民年金の加入期間も短かった。「正社員同様に働いてきたのに、年金も少ないし退職金もない」と、悔しさをにじませる。 独身で都内の築四十数年の一軒家に住み、昨年母親をみとった。蓄えは十分でなく、「働かなければ暮らしていけない」。 最近、派遣で働く若い人たちと接するたび、「年金をきちんとしておかないと、後で困るわよ」と声をかける。 「非正規雇用が増え、老後の生活に困窮する人が続出するのではないか」。派遣労働者らで作る労働組合「派遣ユニオン」の書記長、関根秀一郎さんは心配する。 厚生年金の加入対象になるには、雇用契約期間や労働時間などの条件がある。派遣労働者は短期の雇用契約を繰り返す働き方が多いことなどから、厚生年金に加入していないケースが少なくない。厚生労働省の2007年の調査によると、正社員の厚生年金加入率が98・7%なのに対し、派遣やパートなどの非正規雇用では46・6%に過ぎない。 「非正規雇用は収入が不安定で、仕事がない時期に国民年金の保険料を払えない人もいる。将来への備えは大切だと分かっていても、今の生活を維持するのがやっとの状況だ」と関根さんは指摘する。 貿易事務の派遣で16年間働いてきた都内の女性(54)は今年2月で契約を打ち切られた。米国系企業の正社員だったが、勤め先が日本から撤退し、派遣労働者に転じた。「年齢的にそれしか選択肢がなかった。ただ、派遣であれば仕事がなくなることはないと思っていた」と振り返る。 しかし、不況で状況は一変し、新たな派遣先が決まらない。失業保険も12月までで、その後は貯金を取り崩して生活するしかない。「非正規だと2、3か月ごとの契約のため、長期的に人生を考える余裕がなかった」と女性は漏らす。 離れて暮らす70歳代の母親が心配して電話をかけてくる。「こちらが心配しないといけない立場なのに、申し訳ない」。再就職をあきらめず、アパートで一人、履歴書を書く。 (2009年10月16日 読売新聞)
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